去年の大晦日、12月31日に2012年冬のコミックマーケットC83に男友達と二人寂しく行ってみた。 今回はC83で購入した(というよりこれが目的だったが)「星灯りの街灯」のレビュー 1361957309642-1  



この作品は、やなぎなぎがC83のために、本人により描き下ろされたmini EP+絵本である。
落っことしてしまった星を追いかけて、いくつかの不思議な街をめぐる街灯のお話というコンセプトで描かれていて、やなぎなぎの完全オリジナル制作だ。



この作品がC83で発売されることが12月中旬ごろにいきなり発表されたので、もともと別の目的があった友人とともに参戦してくることにした。
発表時は通信販売は未定のコミケのみでの数量限定販売であり、中でも各日程先着50名は大晦日のサイン会に参加できるということで、大晦日にCDをゲットしてサイン会にも参加するつもりで出発した。



コミケ参加は真夏のC82以来だったので、前回ほど辛くはないだろうと考えていたのだが、冬は冬できつかった。
マジで寒い。動かずに待機する時間が非常に長いので普通の外出着では凍死してしまうくらいに寒い。
僕は、上はヒートテック2枚にシャツとパーカーにダウン、下はヒートテック2枚とズボンという2012年で一番の厚着をして臨んだのだが、それでも日の出前はめちゃめちゃ寒くて震えが止まらなかった。
冬のコミケは自分の常識を超えるレベルの厚着をして臨むことを強くおすすめする。



そんな感じで、開場後は割と並んだが問題なく企業ブース内に入って「星灯りの街灯」とサイン会参加整理券を入手できた。


ジャケット、中のミニ絵本、曲の全てがやなぎなぎのオリジナル制作で存分にやなぎなぎの魅力を楽しめるCDになっている。
全体の構成としては、作品紹介にもあるように全曲通して一つの物語になっている。


中のミニ絵本
作品のテーマとなっている「街」が描かれている。
1361957439814
 


見開き
左ページの右下のサインはサイン会で書いてもらった。
1361957340714
 






収録曲(7曲、34分)
  1. introduction
  2. lux imperium
  3. 錫の繋ぎ目
  4. 星灯りの街灯
  5. lux imperium(instrumental)
  6. 錫の繋ぎ目(instrumental)
  7. 星灯りの街灯(instrumental)


クロスフェード





☆introduction
作曲:やなぎなぎ

この作品の物語の序章となる曲。歌詞はなく、幻想的で冬の景色をイメージさせるメロディから始まり、やなぎなぎのバックコーラスが途中から入ってくる。
序盤から少しずつ盛り上がっていき、二曲目のlux imperiumにつながっていく。



☆lux imperium
作詞:やなぎなぎ
作曲:やなぎなぎ

introductionから続いて氷の割れたような音から一気にやなぎなぎのボーカルとともに始まる。
リズミカルでテンポの速いメロディと、コーラスの入ったやなぎなぎの声がマッチして冬の活気ある街並みを思い起こさせる曲だ。

疾走感あふれる曲であるが、歌詞の内容は「僕」が心の奥深くで感じている哀しみを描いている。
過去を顧みて悔やみ、その哀しみを描くような表現はやなぎなぎらしい。
歌詞はやなぎなぎらしいのだが、メロディはやなぎなぎにしてはかなり速い曲であることや、その速さの中にも複雑なアンサンブルをきかせて切なさを表現しているあたりが今までの作曲とは違う点だろう。

こういうところは以前からインタビューなどで本人が言っていた「外からの刺激を自分の音楽に落とし込んでいきたい」ということにつながっているのだろうか。
テンポこそ違えど、曲の魅せ方としてはbermei.inazawa作曲の真実の羽根に近いものを感じる。




☆錫の繋ぎ目
作詞:やなぎなぎ
作曲:やなぎなぎ

この曲はまた一段と冬の寒い景色を思い出す曲になっている。
ピアノの音色とクリアなボーカルが美しい一曲であるが、この曲は居場所を失った「星のあの子」が彷徨う様子が描かれている。lux imperiumで、過去を悔やみ彷徨い歩く「僕」とは、この曲でいう「星のあの子」なのだろうか。
作品紹介を照らし合わせると、lux imperiumの視点は落っこちてしまった「星」で、この曲の視点は「星」を失くした「街灯」であると思うが、この「街灯」は「星」を探して錆びついた体を必死に動かして旅を続けている。

中盤の

ふつふつ消える街のネオンに
場所を失くした星のあの子は
ああ もう遠くへ行く
もう 誰もいない

という表現は「街灯」の寂しさ、哀しみがよく表れているところであり、心に沁みる。



最後にある「氷の下で築かれた城」というのは、やなぎなぎが同人時代にリリースした「氷下の国」とつながっているのだろうか。
そうなると、最後の曲である星灯りの街灯の舞台は氷下の国であるわけだが、両作品のジャケットを比較してみたい

こちらが「氷下の国」のジャケット
thumb
 



そしてこちらが「星灯りの街灯」のジャケット
2012_yanaginagi_l
 







…めっちゃ似てね?

氷下の国が「街灯」に照らされて輝いていると考えると同じ場所じゃないか?
雪が降っているところ、丘の上に城がたっているところ、何より錫の繋ぎ目にある「氷の下に築かれた城」という表現が「氷下の国」とのつながりを表していると思う。
もしこれが意図して作ったものならば、二年も前の作品とリンクしているようでとても感慨深い。




☆星灯りの街灯
作詞:やなぎなぎ
作曲:やなぎなぎ

本作品の最後の曲。
複雑なアンサンブルのきいた曲で、静かなメロディは雪の降る冬の景色を連想させる。
この曲は、同じ歌詞が二度繰り返されていて、一番ではかすれたような音、二番ではもやが取れたようなクリアな音で聞こえてくる。
同じ歌詞を二度繰り返すという、この新しい表現方法はまたこの曲の雰囲気を引き立てている。

歌詞の内容を見ると、同じ歌詞で、「星」と「街灯」の両方の視点から描かれているようにとれる。
氷下の国にたどり着いた「星」と「街灯」はそれぞれ別の道を歩んでいく。
「べつべつの手を握りしめよう」、「灯になる 光になる」という別々の結末を迎える「街灯」と「星」の別れを描いた曲であると思う。

互いに「空を知りたくて」という気持ちから別れを決意する場面であるが、その二人(?)の心境を描いた、

壊れた道を君の形へ
壊れた虹を君の形へ

という表現が切なく心に刺さる。
雪の降る日には外の景色を眺めながらこの曲を聴いて感傷に浸りたい。 







今回の作品は、ここの曲を聴いてもそれぞれが別々のテーマ、それぞれの哀しみを抱えた曲で、全体を通して聴くとこの別々の物語がリンクして一つの大きな物語になる。
麻枝准とコラボした「終わりの惑星のLove Song」はそれぞれが小説のような強い物語性を持っていて、それぞれを一つの物語にリンクさせる曲で物語をつなげて、大きな惑星の物語として描かれた。
また、MANYOと組んだ「Tachyon」では個々の曲が曲として独立していながらも、全体を通すと一直線につながり一つの大きな物語になる。

「星灯りの街灯」は、そういった過去の全体で一つの物語になる作品と共通点を持ちながらも、全く別のアプローチをしている。
例えるなら、「終わりの惑星のLove Song」は大きな円(物語)の中に小さな円(物語)がたくさん存在していて、
「Tachyon」は一直線に並んだ小さな点(物語)がつながる一つの直線(物語)、
「星灯りの街灯」は別々の円(物語)を線で結んでいく、というような感じだ。


そして、今回はやなぎなぎの完全オリジナル作品であるので、今まで自分がかかわった作品に刺激を受け、それを自分のものにして外に発信していくという、新しいチャレンジをしてみた作品ではないかと思う。



このように、今回の「星灯りの街灯」は様々なところに今までのやなぎなぎの作品から受け継いだ要素が見られる、メジャーデビューしてからの一年の集大成ともいえる作品になっている。 
一年でこれほどの新しい要素を取り入れ、自分でアレンジして再び発信したやなぎなぎの変化のスピードはすごいと思った。今後のM3やコミケでもやなぎなぎの個人作品が出ることがあるかもしれないが、その時が今から楽しみである。



最後に、やなぎなぎの個人作品ではあるが、様々な新しい要素を取り入れた作品になっているので過去の個人作品とあわせて聴いてみてほしい。

 
↑入荷数が少ないので、見つけたら確保しておきたい。次回入荷は三月上旬!