11月7日発売の3rdシングル「ラテラリティ」のレビュー
発売日にタワレコで購入したので買ったのはだいぶ昔

インストアイベントとlittle triangleにも行ってきた ライブ行くたびにラテラリティは聞いているので先日のZoetrope発売記念イベントと合わせて生で三回聞いたことがある。  1361888303258-1

ジャケットかっこいい  


ジャケ裏とCD
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裏面
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ラテラリティはアニメ「ヨルムンガンド PERFECT ORDER」のED
カップリングの真実の羽根は同アニメの3話のみEDとして放送された。


収録曲(6曲、28分)
  1. ラテラリティ
  2. 真実の羽根
  3. link
  4. ラテラリティ(instrumental)
  5. 真実の羽根(instrumental)
  6. link(instrumental) 




☆ラテラリティ(アニメ「ヨルムンガンド PERFECT ORDER」ED)
作詞:やなぎなぎ
作曲:藤田淳平(Elements Garden)




今までのやなぎなぎの曲にはないくらいテンポの速い曲。というよりハードロックって言った方が分かりやすい。
ドラムとギターが非常にパワフルで、同じく「ヨルムンガンド」のEDであったAmbivalentideaとは全くタイプの違う曲調になっている。 

しかし、普通のハードロックではない。パワフルな演奏の中にもジャズっぽいピアノの音が入ることで、派手で迫力がありながらもどこか繊細で切なさのあるメロディであり、そこにやなぎなぎの声と歌詞が合わさったことで繊細さを増している。


タイトルにもなっている「ラテラリティ」は生物個体の左右対称的な器官の一方が、他方よりも優れている現象のことを指す。
歌詞のなかでは、詞の主人公が「劣っている半分」で、「君」が「優れた半分」として物語が進んでいく。一番では主人公が優れたもう半分に憧れてその世界を知りたがり、何も感じられない歴然の差に嘆き、絶望する様子が描かれているのだが、二番では一転してその「君」の視点から描かれている。主人公は優れている「君」に憧れて嘆き、嫉妬しているが、「君」は決して絶対の存在ではなく、「君」自身も偶然の重なりで今の立場になってしまい、それを奇跡と名付け群がってくる大衆から逃げて自分の殻にこもり、心を許しあえる「優しい繋がり」を求めて苦しんでいる。

「一瞬の嘘を隠しきったまま 君は君を底に沈めた」という表現は、 主人公と「君」の間に大きな差ができるきっかけとなったたった一度の嘘を後悔してどんどん殻に閉じこもっていってしまったということだろうか。
そして「君」を失った主人公は「右だけの視界」で歩き出す。様々な記憶を思い起こしていく中で、主人公は「君」に向けられた「憧れ哀れみ嘲り」を知ることとなった。

ここから主人公は神様に向かって主人公と「君」の間に「分かれ道」が生まれてしまったきっかけを知ってしまったことを嘆く。ここの歌詞の流れが個人的に大好きで何度も聴いてしまう。

神様
気づかせないで
同じ気持ちになれないでしょう

そばにいたい
深く絡む思慮を摘み取って

こんなに願ってても
同じ世界が見えないなら
君の半分になりたい


この流れは初めて聴いたときにも感動した。何より主人公の嘆き→「君」の他人に理解されない苦しみという順に描いてきてこの最後は反則である。
特に「君」の気持ちに気づいた主人公の叫びである最初の三行が好きだ。「神様 気づかせないで」というのが主人公のどうしようもなくやり場のない悲しみを表現している。
最後も、感動的という言葉が陳腐に聞こえるほど深みを感じさせられる。一番の「早く片方を奪って」と「君の半分になりたい」が対になっていて主人公の心境の変化がこの1フレーズに顕著に表れている。どんなに祈っても、願っても「君」と同じ景色が見られないのならもういっそ「君」の半分になりたいと神様に嘆く主人公の苦しみも心をえぐる。 

たかだか四分半の曲でここまで自分の気持ちが深くえぐり取られた気分になった曲は他にはない。めずらしくこの曲の歌詞は登場人物の心の叫びを直接表現しているがここに至るまでの過程がやはりやなぎなぎらしく抽象的な表現で嘆き、苦しみを描いている。
歌詞は間違いなく僕の中で一番のお気に入りの曲だ。

「歌詞がいい曲教えて」と言われたら何よりも先にラテラリティが浮かぶだろう。



☆真実の羽根(アニメ「ヨルムンガンド PERFECT ORDER」3話ED)
作詞:やなぎなぎ
作曲:bermei.inazawa

Ambivalentidea、白くやわらかな花の作曲を手掛けたbermei.inazawaの作曲。やはりこの二曲と近いテイストで静かでおとなしめのメロディの中にアンサンブルをきかせているが、ピアノの情緒的に綴っていくような感じは独特である。

「真実の羽根」とは、エジプト神話における真理の女神マアトの羽根のことだ。
死者の霊は「第一の死」(いわゆる世間でいう一般的な死)の後、天秤の審査を受ける。一方には霊の心臓を乗せ、もう一方には真実の羽根を乗せる。霊が生前悪事を働いていた場合にはその悪事が心臓に染み出て重くなり、天秤は釣り合いが取れない。天秤が釣り合わなかった時にはアメミット(幻獣)に心臓を喰われ「第二の死」を迎える。
天秤が釣り合ったときのみ長く危険な旅を経て永遠の楽園アアルにたどり着くことができるというお話だ。

アニメの話になるが、この曲がEDとなった3話ではアールという登場人物が死亡して、その追悼歌としてこの曲が流れる。この「アール」と「アアル」をかけたらしい。


アールのレクイエムとして描いたというこの曲は、アールが天秤の審査を受ける場面を描いているのだろうか。もちろんヨルムンガンドを直接匂わせる描写はないので曲単体ではレクイエムとして楽しむ(?)ことができるが。
情緒的なピアノもレクイエムらしさを引き立てていて、とても心を落ち着かせる雰囲気がある。


しかし、歌詞を聴いていると、「最後の羽根」が天秤に乗せられても天秤が傾くことはなかった。つまりアールの心臓は真実の羽根より重かったのである。アールはアアルに旅立つことはできず、アメミットに喰われてしまうだろう。歌詞でも「揺らめく視界の炎 ふっつり消えて道を途切れさせた」とあるのでアールの旅は終わってしまっている。
しかしそう考えると最後の

旅の果てに見つけるだろう 
永遠の向こう
真実の羽根を 

という表現が少しグロテスクに感じる。アメミットに食い尽くされていく中でかすかに視界の向こうに見える真実の羽根に必死に手を伸ばす主人公が思い浮かんでしまっていたたまれない気持ちになる。 



レクイエムなら自分が死んだときにはこの曲もいいかもしれないとか考えたが、アメミットに食い尽くされてかすかに見える真実の羽根に向かって手を伸ばしながら「第二の死」を迎えるのはさすがに嫌なのでご遠慮したい。





☆link
作詞:やなぎなぎ
作曲:やなぎなぎ

やなぎなぎのメジャー初セルフプロデュース曲。「デジタルな世界で人との繋がりに不安を覚えてしまっている気持ち」をテーマにして描かれている。

軽快なサウンドで、やなぎなぎも明るめの歌い方をしていてバックコーラスもリズミカルなので明るい曲かと思いきや、例によって歌詞が「僕」の悩みを日常的な言葉を用いて表現しており深みがある。


「バラバラに浮かんでるカラフルな数字」
「目の前のものが遠くに見えて」
「目を離せば消えそうな」
「電源が落ちれば一人ぼっち」

これらの表現が、インターネット、SNSの普及などによるデジタル社会に居場所を見いだせず不安を感じている「僕」の気持ちを表現している。
デジタル化が進むことで感情を奥に押し殺して自分を失っていき、電源が落ちてしまえば一人ぼっちの世界が 描かれているが、この後に僕の夢が続く。





いつか心が言葉を超え
何も頼らず届いたなら       




このフレーズが、一段明るくなったメロディとやなぎなぎのクリアなボーカルで曇り空に一筋の光が差し込んでくるかのように希望に満ちて晴れやかに届いてくる。
心が通じ合えばいつでも隣り合わせ、電源が落ちても心がつながっている。そんなふうになればいいのに。
そんな「僕」の夢が訴えかけるように歌われている。 




人とのつながりを描いたこの曲のラストは

バラバラに浮かんでる数字
捕まえたら
君の形目指して並び替えよう

で締めくくられる。 一番最初の指先で数字を集めるだけのむなしい繋がりとは違う、「君」との真実のつながりを求めて君ともっと話をしたいという「僕」の心情の現れだと思う。




メジャーでは初めてのセルフプロデュース曲は、軽快なメロディにやなぎなぎの透き通った歌声、それでいて心に直接訴えてくるような心の叫びを形作る日常の風景という、やなぎなぎらしい一曲となった。

透き通った声に高い歌唱力、心に突き刺さるのにやわらかい作詞、それに加えて作曲までやなぎなぎの魅力を活かした繊細さを持っている。ここまで揃っている歌手は他にはいないと思う。
いずれはその名を日本中に知られる、トップアーティストまで登り詰めてほしい。






以上の三曲がやなぎなぎの3rdシングル「ラテラリティ」の収録曲となる。
それぞれが全く違うテイストを持っていながら、どの曲もやなぎなぎの魅力をそれぞれの曲にしかない形で引き出しているボリュームあるシングルだろう。

この3rdシングルはそれぐらい名作といえる完成度だ。
他の曲でやなぎなぎを知った人はぜひこのシングルも聴いてみてほしい。